活動のヒント

孤独な育児を「ひとりじゃない」に変える【ボランティアが届ける家庭への温かな寄り添い「ホームスタート」】

掲載日:2026.07.23

現代社会では、周囲の協力が得られず孤独な状態で子どもを育てる「孤育て(こそだて)」によって、育児を負担に感じる親が増えているといいます。そんな中、全国で広がっているのが、家庭訪問型子育て支援「ホームスタート」。ホームスタート・ジャパンの代表理事を務める森田圭子さんや、ボランティアとして実際に家庭を訪問しているお二人に、活動の裏側にある思いややりがいについて聞きました。 (写真左から、代表理事の森田圭子さん、ボランティアの前田裕己子さん、西川なつ子さん)

「ひとりで抱え込まない育児を」――地域と家庭をつなぐホームスタートの仕組み

「ホームスタート」は、もともと約50年前にイギリスで始まった、歴史あるボランティア活動。子育て経験のあるボランティア(ホームビジター)が家庭を直接訪問し、週に1回、2時間程度を計4~6回にわたって共に過ごします。

核家族化が進み、近所付き合いが希薄になった現代社会において、一人で不安やストレスを抱え込む「孤育て」に悩む親は少なくありません。代表理事の森田さんは、親の気持ちに寄り添ってじっくりと話を聴く「傾聴」と、一緒に家事や育児を行う「協働」を大切にしているところが、ホームスタートと他の育児支援サービスとの大きな違いだと語ります。

「ホームスタートは、家事を代行するヘルパーや、子どもを一時的に預かるベビーシッターと違い、必ず親と一緒に活動します。孤立しがちな家庭に寄り添い、お母さんと一緒に子どもと遊んだり、おしゃべりをしながら離乳食を作ったり、ときには一緒に近くの公園へ出かけたりしながら、子育ての不安や孤独感を和らげます。無料でサービスを利用でき、ご家庭が経済的な負担を気にしなくていい点も、ホームスタートの大きな特徴です」

親子と遊ぶホームビジターの活動イメージ(提供:ホームスタート・ジャパン)

全国で展開されるホームスタートの活動は、中心となる「ホームスタート・ジャパン」と、地域でボランティアを募集・養成し、訪問依頼のあった家庭へホームビジターを派遣する「スキーム(地域運営団体)」が、手を取り合うことで成り立っています。

各スキームには、活動のコーディネートを行う「オーガナイザー」を配置。オーガナイザーは、訪問依頼のあった家庭のニーズを丁寧に聞き取り、ホームビジターとのマッチングを行います。家庭への訪問を開始したあとも、毎月の会議やフォローアップ研修を通じて、オーガナイザーがホームビジターをしっかりと支える体制が整っています。

代表・森田さんが語る、支援の原点と「孤立を防ぐ」社会への願い

森田さんは、自身もかつて、地域や周囲とのつながりに救われた経験があるといいます。

子育て支援に関わることになったきっかけについて語る森田さん

もともと子どもが大好きだったという森田さん。しかし、結婚後に夫の転勤に伴って移り住んだ土地での初めての子育ては、想像していたものとは違っていました。子どもが泣き止まない、どうしていいか分からないという日々のなかで、イライラしてしまう自分や、赤ちゃんに対して腹を立ててしまう自分に驚き、自己嫌悪に陥ることもあったと言います。

そんな子育て中のある日、満員のバスのなかで、子どもが泣き止まず周囲の目が気になってパニックになりかけていたとき、近くに座っていた方が子どもだけでなく森田さんにもアメを握らせ、励ましの声をかけてくれたことがあったそうです。

地域の方に支えられた経験が心に残り、その後埼玉県和光市に移り住んでから、子育て支援の活動に積極的に関わるようになった森田さん。そこで出会ったのが、当時ホームスタートを日本に導入しようとしていた大学教授の西郷泰之先生(前代表)でした。西郷先生からホームスタートの仕組みを聞いた森田さんは、問題を抱えた親子を開かれた場所に招くのではなく、こちらから家庭に出向いていく「訪問型の支援」に強く共感し、ホームスタートの立ち上げ、国内での普及活動に深く関わるようになります。

「ホームスタートのボランティアは、何か特別なアドバイスや子育て指導をするわけではありません。子育ての辛さは人それぞれであり、大変さの基準も違います。ホームビジターは専門的な知識を持っているわけではありませんが、だからこそ、悩みを抱える親の話をじっくり聴き、等身大で寄り添います。地域の誰かが話を聴いてくれるという安心感があるだけで、親が前を向くきっかけを作れることがあるんです」

ボランティアが体験した、親子と共に笑い合える喜び

実際に江東区の「ホームスタート・こうとう」で活動するホームビジターの皆さんも、それぞれの思いを持って活動しています。

活動歴3年になるホームビジターの西川さんは、ホームスタートでのボランティアを始めたきっかけについて、次のように話します。

ホームビジターとして活動する西川さん

「自分の子育てが一段落して少し余裕ができ、地域のために何かできることはないかと考えていたとき、ホームスタートを知りました。自分がかつて子育てで不安を感じていた時期のことを思い出し、あの頃にじっくりと話を聴いてくれる誰かがいたら……と、当時の自分のように悩んでいる親御さんたちの力になれたらと思ったんです」

ホームビジターとして活動するには、約30時間(全7日間)の「ボランティア養成講座」を受ける必要がありましたが、講座の構成を工夫し、現在は約22時間に短縮されています。

ホームビジター養成講座 説明会の様子

活動歴2年になる前田さんは、この講座を振り返って次のように語ります。

「最初は約30時間と聞いて、最後までやりきれるか不安もありました。でも実際に講座を受けてみると、興味深い学びの連続。子どもの権利や地域の子育て事情を学ぶ座学だけでなく、自分の家庭環境を振り返ったり、自分がどんな子どもだったかを話し合ったりするグループワークもあるんです。同じ講座に参加している仲間の話を聴いたりすることで、人それぞれにいろいろな生き方や思いがあることをあらためて知ることができ、ホームスタートが大切にしている『傾聴』についてじっくり学ぶことができました」

ホームビジターとして活動する前田さん

養成講座を終えると、オーガナイザーがマッチングした家庭への訪問が始まります。初めての家庭へ行く際は、活動歴が長くなった今でも、毎回とても緊張すると語る西川さんと前田さん。

しかし訪問を重ねるうちに、最初は緊張していたお母さんがだんだんリラックスして、自分の内にある悩みや本音をたくさん話してくれるようになるといいます。「まるでもともと知り合いだったみたい」「ママ友や実の親には言えないようなことでも、ホームビジターさんには何でも話せそう」と言ってもらえたとき、そしてお母さんと一緒に笑い合えた瞬間に、「この活動をやっていて本当によかった」と、やりがいと深い喜びを感じるそうです。

また、ホームスタートは訪問のあとに、毎回オーガナイザーへの報告を行います。自分の対応について「あれでよかったのだろうか?」と悩むことがあっても、今度はホームビジター自身がオーガナイザーに話を聴いてもらい、フィードバックをもらうことで、次の活動へのパワーをチャージできるそうです。

専門知識がないボランティアだからこそ、等身大の寄り添いができると語る西川さんと前田さん

活動を通じて「自分の居場所」や「新しい仲間」ができることも、ホームビジターを続ける大きな魅力。ホームビジター養成講座のあとも、毎月のミーティングなどで同じ志を持つ仲間と顔を合わせることで、地域とのつながりや、自分自身の新しい生きがいを見出すホームビジターも少なくありません。

「何か地域のために役に立ちたい」「自分の子育て経験を活かしたい」と考えているなら、ぜひお住まいの地域で、ホームスタートの説明会に参加してみてほしいと語るお二人。

「ホームスタートの活動は特別な資格や専門知識がなくても、充実した講座を受けられ、オーガナイザーがしっかりと支えてくれるので、安心して続けられます。子どもが好き、悩みを抱える親御さんたちの力になりたいという方に、気軽に一歩を踏み出してみてほしいです」