スペシャルインタビュー
お笑いコンビ・蛙亭のイワクラさんは、約15年の献血歴を持ち、自他ともに認める大の献血好きとして知られています。血液は、医療技術が進歩した今日でも人工的に造れず、長期保存もできません。そうした中で献血は、病気の治療や手術などで輸血を必要としている方の尊い「いのち」を支えるボランティアといえます。イワクラさんに、献血をはじめたきっかけや長く続けるコツなどについて聞きました。
「普段は考えないことを考えられる時間」
──献血を始められて約15年とのことですが、どういうきっかけで献血をされたのでしょうか。
NSC(吉本総合芸能学院)を卒業して1年目に、大阪・難波にある高島屋の前に来ていた献血バスの前で漫才をさせてもらい、その後にそのまま私たちも献血をさせてもらったのがきっかけでした。
──看護師さんがやさしくてハマったとのことですが、具体的にどんな感じでしたか?
そのとき、1年目というのもあって漫才が全然受けなくて。すべり倒して、結構落ち込んでいたんです。さらには宮崎から大阪に上京したばかりで街にも慣れなくて。大阪の方は結構チャキチャキしていらっしゃるし、しゃべり方も早くてちょっと心が追いつけなくて疲れていたところに、看護師さんやスタッフさんたちがすごくやさしくしてくれました。「今日は体調悪くないですか?」「お昼ご飯は何時に食べましたか?」と聞かれて、答えたら「そうなんですね。なにか食べていたならよかったです」って。すごく癒やされて、普通の会話もしてくださって、だいぶ心が楽になりました。
ネタがすべったことも忘れられ、自分が癒やされた感じだったので、それで人の役に立てるというのが衝撃的でした。それからいろいろな場所に献血センターがあることに気づいて、空き時間があるときに通うようになりました。
──献血に対して、怖さや緊張はありませんでしたか?
初めて献血をしたときは、やっぱり怖かったです。イメージだけで「なんか針が太そう」みたいな。ふつうに考えて、注射って怖いですもんね。でもやってみたら、全然そんなことなくて「あ、こんな感じなんだ」って。それからいろいろなところに献血に行きましたが、どこでも看護師さんやスタッフさんがやさしくていつも癒やされています。
──献血中の時間、イワクラさんはどのように過ごされているのでしょうか。
スマホも見ずに、ちょっと考え事をすることが多いですね。「あぁ、自分も生きているのか」とか、「この血液が誰かの役に立つのか」とか。「自分でも人の役に立てるのかな、自分は価値のない人間だと思っていたけれど……」とか、なんか哲学というか、普段は考えないことを考えられる時間なんです。あの時間がすごく好きで、すごく有意義だなと思っています。
献血中って自分の血液が見られる、非日常ですよね。一度献血中に「(献血のパックを)触っていいですよ」と言われて触れてみたら温かくて、「血液ってあったかいんだ」と気付いたり。
日々過ごしていると、たとえば駅とかで肩をバーンとぶつけられて「チッ」と舌打ちされて心がすり減るようなことがあります。夜中のコンビニに入っても店員さんから「いらっしゃいませ」とも言われないことが多い中で、「自分って存在していないのかな」と思うときも結構あるんです。でも献血センターでは「あ、自分は存在しているんだ」と認識できるので、それがすごく心の支えにもなっています。
──15年も続けていると、体調やスケジュール調整などで「あ、今日は行けないな」というときもあると思います。継続するコツはなんでしょうか。
献血を楽しみにすることです。義務になるとやらなくなる人間なので、「あぁ、行けていないから行かないと」ではなく、「空き時間があったら献血に行こう」という軽い気持ちでいます。映画に行こうくらいな感じで、「明日ちょうど時間空きそうだから行けるな」とか。献血カード(献血履歴などを確認できる会員カード)がアプリになっている今もカードをお財布に入れていて、カードを見て思い出したときに行ったりします。
あとは、献血バスと遭遇したときですね。新宿駅から歩いて帰っていたら献血のバスが止まっていて、「あ、そういえば最近行っていなかったわ、ラッキー!」みたいな感じでフラッと入ることもあります。

ボランティアになるとは思っていなかった--イワクラさん流・献血の「楽しみ方」
──長年続けていらっしゃる中で、献血に対するイメージが変わったことはありますか?
これまで好きで献血をしていたのですが、それがボランティアになるとは思っていませんでした。東京都のお仕事で「ボランティアについてお話ししてください」と言われて、「これ(献血)ってボランティアになるの!?」と気付きました。自分が楽しみ、癒やされに行っているので、知らないうちにボランティアをして社会に貢献できていた「イエーイ!ラッキー!」とうれしかったです(笑)
──献血を続ける中で、「献血っていいな」とか「これからも続けよう」と思うような出来事や気持ちの変化はありますか?
普段「献血に行っている」という話はあまりしないんです。でも、Instagramのストーリーズ(写真や動画を24時間限定でシェアできる機能)やSNSなどで、芸人の先輩や後輩、同期が「合間に献血行ってきた」と書いているのを見て「おっ、身近なところにめちゃ仲間がいたんだ!」と思うことがあります。お気に入りの献血会場の情報をいただいたり、献血がきっかけでしゃべったりするようになったりする人もいて、すごく面白いなと。
あとは、ファンの方が「この間、献血に行きました」「献血に行っています」と言ってくれるようになりました。「えっ、めっちゃうれしいんだけど!」「ありがとう~!」と、献血をきっかけにいろいろな人とつながれているのがすごくうれしいです。
そして、献血センターに来ている人は皆ボランティアをされているということで、「みんなやさしい人の集まりってことか」と。勝手にみんな仲間と思っています(笑)
普段、芸人とばかりかかわっていると、社会に貢献している感覚がまったくなくて。「ただ自分の好きなことをして生きている」「他の人たちはもっと社会貢献しているよなぁ」と思って生きていました。「献血はボランティアに入ります」と言われてから、「あ、ちょっとは役に立っているかも」と思えています。
──献血にまつわるエピソードがあったらお聞かせください。
ドラマの現場で以前なすびさんとご一緒させていただいたときに、「イワクラさん、献血しているよね」って。SNSや献血のポスターを見てくださったようで、「僕も昔からやってるんだよ」と話しかけてくださったんです。すごく芸歴の差があって、なかなかお話しできない方だと思っていたので、献血がきっかけになったとても貴重な時間でした。
それと、普段はそんなに会話をしないので知らなかったのですが、相方(蛙亭・中野さん)も奥さんと一緒に献血に行っているらしく、新しい一面を知りました(笑)

SNSを通じて献血の輪が広がっていることを感じる場面も多いそう
「ボランティアフェスタ2026」で知ったさまざまな活動
──2026年2月に開催された「つながる!!Tokyoボランティアフェスタ2026」にも出演されていました。「ボランティア」というテーマで芸人仲間が集まる空間でしたが、出演されて何か刺激を受けたことや感じたことなどはありますか?
ボランティアという題材を入れたネタは、見ていて楽しかったし、普段はボランティアをテーマにした漫才をする機会がないので、もっと機会を増やしてしていきたいなと思いました。
ボランティアフェスタ2026では、とっつきやすいように居酒屋のコントに献血のネタを混ぜたのですが、めちゃくちゃ笑っていただけました。自分たちも楽しいし、お客さんにも献血のことを知ってもらえて、ネタを考えるのも楽しかったです。
──献血以外で、何か興味を惹かれた活動はありましたか?
芸人仲間が老人ホームで「一緒にネタをやって体を動かす」ボランティアをされている話を聞き、「そういうボランティアがあるんだ!」と驚きました。ほかにも、学童で子どもに勉強を教えている先輩もいて、いろいろな活動があることを知りました。
おじいちゃんおばあちゃんとか普段は接しない方とお笑いを通じて接することができて、それがボランティアにつながっているのもすごくいいですよね。ウィンウィン(Win-Win)と言っていいのかな、自分も楽しいし、人とのつながりを感じられるのがボランティアのよさだと思います。
以前、ゴミ拾いのボランティアに行かせてもらったのですが、「きれいにしよう」っていう人が集まっていること自体が、なんかすごいチームだなと。「この人たちがこの地球上にいることが心強い」と感じ、一緒にゴミを拾っていて仲間意識がわきました。また、いろいろな人と大好きなお笑いを通じて触れ合えたらいいなと思っています。

頭で考えず「軽いノリ」で飛び込もう!
──以前、「『毎日、徳を積む』をモットーにしている」とお話しされていました。片付けなども積極的にされているそうですね。
以前、甲子園に行った高校の監督が、「野球部の3年生にも片付けをさせる。なぜなら、3年生も大学に入ったり社会人になったりしたら1年目になるから。その時に3年生の気分のままでいると痛い目に遭うぞ、という教え」だと話されていて、それが心に残っているんです。
なので、楽屋の片付けなど掃除をしていて「えらいね」とか「徳を積んでるね」みたいに言われると、恥ずかしいというか、「本当に勝手にやっているだけだからあんまりいじらないでくれ、見ないでくれ」と思います(笑)
楽屋を掃除していると、後輩が気を使って動き出してしまうので、「あ、ごめんごめん! 本当にやりたくてやっているだけだから!」って、今の芸歴がちょっと邪魔になってきている状態で。
なのでいま、『徳』という会を作ろうかなって目論んでいます(笑)。参加者を募って、楽屋とかを片付ける会を作りたい。ただ、みんなビビって全員参加してしまう可能性があるので、ちょっとずつ広げていこうかなと思っています。
──献血は「目に見えない誰かへのボランティア」ですが、イワクラさんにとってボランティアはどういったものでしょうか。
自分の中では「ボランティアをしている」という感覚がないんです。性格的に「自分なんて価値のない人間だ」と思いがちなんですけれども、献血とかに行くとやさしくしてくださるし、「人の役に立っているんだ」と感じられる。「じゃあ私はこうやって普通に暮らしているだけでいいんだ」「自分はいてもいいんだ」と思いながら、献血をしています。
──ボランティアの魅力はどんなところにありますか?
ゴミ拾いをして海を守ろうとか、献血をして人助けをしたいとか、ボランティアは同じ一つの目標に向かって人がたくさん集まっているので、しゃべらなくても一体感やチーム感、絆が生まれて、すごく心強く、生きる活力になります。日頃、自分は人とのかかわりが薄いことを感じているので、「自分は一人じゃないぞ」と世の中とつながっていることを認識できます。やさしい人とふれあえる時間であり、ボランティアはすごく幸せを感じられる大事な時間です。
──最後に、献血をしたいけど迷っている方や、ボランティアに一歩を踏み出せないでいる方に向けてメッセージをお願いします。
献血は「怖い」という方も多いんですよね。でも、この間初めて献血をしたマネージャーさんも、「やってみたらあっという間だった」と話していました。「もう二度とやりたくない」という感想は出てこなかったので安心してほしいです。
私、舞台の上で毎回緊張するんですけれど、出番のブザーが鳴ったら絶対に行かないといけない。それと一緒というか、「ここ(献血)にさえ来れば、あとはもう意外とすぐですよ」ってことを広めたいです。
でも、勇気を出すのって難しいことですよね。ちょっと前に道を歩いていたら、おばあちゃんが派手に転んで倒れたんです。私は頭で色々考えすぎてすぐに動けなかったのですが、高校生の女の子2人がすぐに「大丈夫ですか!」と駆け寄っていって。
それを見て「あ、頭で考える前にパッと動こう」と思いました。最近、勇気とかやる気って「出す」とかじゃなくて、動いてみないと出ないものだなとすごく思うんです。やる気を起こすために何かしようではなく、たとえば「ネタを書く」だったら、「とりあえずなんかバーッと設定を書く」でも動かないと進まない。
ボランティアに関しても「私が助けていいのかな」とか考えず「軽いノリで飛び込んでほしいな」と思います。
それと、なにか自分の好きなもの、続けているものから始めるのもいいかもしれません。ウォーキングが好きだったらウォーキングの途中でゴミを見つけたときに拾ってみる。子どもが好きだったら、お子さんになにか教えるというボランティアもあります。いろいろな方と接するのが好き、しゃべるのが好き、そうしたことが何かしらのボランティア活動とつながっていたりするので、自分の好きなこと、得意なこと、ストレスなくできることに付随したボランティアについて、一度みなさんにも考えてみてもらえたらうれしいです。
