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復興へ寄り添う 大分佐賀関火災から1カ月 前に進んでいけるように

2025.12.17
 大分市佐賀関で180棟以上が焼損した大規模火災は18日で発生から1カ月。延焼を免れた住民の中には、避難所生活を余儀なくされた被災者に寄り添い続ける人がいる。声を掛け合って暮らしてきた昔ながらの地域への愛着が根底にある。(貞松慎二郎)
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 「バタバタと早く過ぎた1カ月。復興までは本当に長い、長い道のりだと思う」
 避難所となっている佐賀関市民センターの前で渡辺忠孝さん(65)は17日、そう語った。ここで12日間、避難生活を送った後、自宅へ戻って暮らしている。ほぼ毎日、市民センターに通い、豆からひくコーヒーが飲めるコーナーで避難者とコミュニケーションを図る。首からぶら下げたカードには「1階コーヒーマシーンの事は私まで」と書かれている。
 今年1月、母博子さんを亡くした。90歳だった。火災発生後、位牌(いはい)と遺影を抱えて着の身着のまま、車で市民センターへ避難。木造2階建ての自宅は軽い被害で済んだが、「家を失った人のことを思うと、心がさいなまれた」と言う。
 佐賀関小学校の児童数は現在34人だが、渡辺さんが通っていた頃は1クラス40人ほどの児童がいて、各学年5~6クラスあったという。同級生と遊んだ思い出は尽きない。「自宅から焼けた家々が見える。明かりが消えて、幸せな暮らしが失われた。元通りにはならないと思うとつらい」
 お盆になると初盆の家庭が故人の遺影を飾って、地域ぐるみで供養の踊りをするのが習わしだ。この夏は博子さんらの遺影の前で、住民たちが踊った。そんな近所づきあいをしてきたからこそ、喜びも悲しみも共有したいと思っている。コーヒーは香りが良く人気があるという。「高齢の方々を孤立させたくない。少しでも気が晴れればうれしい」
 市が検討しているという被災者向けの恒久的な住宅に期待を寄せる。「どれだけの人が残って暮らすのか分からないので、今は想像ができない。結びつきは薄れると思うけれど、戻ってくる人もいるかもしれない」
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 民生委員を10年以上務め、防災士でもある牧野多美恵さん(73)は火災発生後、何人もの高齢者を自身が運転する軽乗用車で避難させた。「足の悪い人たちを優先した」。自宅は無事で、市民センターでの配食ボランティアに加わった。
 避難所では支援物資が行き届き、物的な不自由さは改善されていったが、「四十九日を迎えていない身内の遺骨を持ち出せず、泣き出す人もいた」。パン食も提供されるようになったが、「ご飯を食べたい」と望む避難者に温かいご飯を届けて喜ばれたことも。「声を掛けるだけでも顔色が変わる。少しでも明るくなってくれれば」
 発生直後から自治会長らが連絡を取り合い、炊きだしのおにぎりを用意するなど、「結束は本当に強い」と話す。「見切りをつけて戻らない人もいるだろうが、住み慣れた地域を離れたくないという高齢者は多い。年金暮らしで家を建て直すのは無理。なるべく希望がかなうように配慮してほしい」と訴える。
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 「関の権現様」とも呼ばれる大分市佐賀関の早吸日女(はやすひめ)神社では17日、地元の氏子らが集まって、神社に飾るしめ縄作りの仕上げ作業をした。より火災現場に近い椎根津彦(しいねつひこ)神社を含め3社分の大小計20本を製作。28日に掛け替える予定だ。
 元警察官で、しめ縄作りに携わって20年以上という小野隆芳さん(81)は火災の焼け跡を見て「涙が出るごとあった」。熟練の技でしめ縄の形を見栄え良く整え、「見て少しでも元気になってもらえれば。来年は明るい年になってほしい」と願いを込めた。
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■佐賀関大規模火災の経過
【11月】
18日 発生
   市が佐賀関公民館に避難所開設。最大時、121世帯180人が避難
19日 県が市に災害救助法の適用を決定
   県が自衛隊に災害派遣を要請
   焼け跡で見つかった1人の死亡が確認され、後に住民の男性(76)と判明
20日 民家のある半島部は「鎮圧状態」になったことを市が確認
22日 市が被災者に火災現場への立ち入りを許可
24日 市が住民説明会を開き、市営住宅など約130戸を確保したと報告
25日 県が「被災者生活再建支援法」の適用を発表
   市が消防警戒区域を縮小
26日 県が自衛隊に撤収を要請
27日 市が規制線内の取材を報道陣に許可
   佐藤樹一郎知事らが首相官邸を訪れ復旧・復興に向けて緊急要望
28日 市が半島部の鎮火を宣言
29日 市が立ち入り禁止区域の一部を解除
【12月】
1日 市社会福祉協議会が災害ボランティアセンターを開設
3日 市が災害廃棄物の受け入れを開始
4日 市が火災全体の鎮火を宣言
11日 県警が死亡した男性宅が出火元であることを特定したと発表
12日 市が仮住まいとなる市営住宅への入居手続きを開始