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「オオカミ信仰」飯舘村の神社で例大祭 15年ぶり震災前の規模復活

2025.12.02
 オオカミ信仰で知られる福島県飯舘村の山津見神社の例大祭が4日から6日まで、東日本大震災前の規模で15年ぶりに復活する。「原発事故前のにぎわいを取り戻したい」。そんな思いを共有した住民やボランティアらが手を取り合い、準備に励んでいる。
 山津見神社は、村内の虎捕山(とらとりさん)の中腹にある。平安時代、源頼義が白いオオカミに導かれ、凶賊の橘墨虎(たちばなのすみとら)を捕らえた伝説がある。震災前、例大祭はこの時期に3日間開催され、期間中は東北各地から2万~3万人が訪れにぎわった。
 だが2011年3月の東京電力福島第一原発事故で全村避難となった後は、避難先から村に通って神事だけ行う年が続いた。17年に村の大部分で避難指示が解除されて以降、祭りは復活したが、コロナ禍に見舞われたこともあり1日に限定。神事を中心に細々と行ってきた。昨年ようやく3日間の開催に戻ったものの、出店や催しはなく、神主の久米啓介さん(47)は「昔の姿にはほど遠かった」という。
 「祭りの茶屋と屋台を復活させたい」。避難先から村に帰還した氏子総代らから、そんな声があがったのは今年1月の地域の老人会の新年会。約30人による実行委員会が結成され、実行委を中心にさまざまな企画を練り上げた。
 浜通りの自治体から32軒の屋台が集まる。住民らの手で再現されたかやぶき屋根の茶屋も復活させる。そばやおでん、「豚肉うどん」などの郷土料理が囲炉裏端で振る舞われる。
 例大祭では、オオカミ伝説にちなんだ伝統芸能「虎捕太鼓」を地元住民と福島大の学生が奉納演奏する。浜通りを中心に活躍する劇団が、オオカミ伝説をモチーフにした演劇を披露する。
 拝殿から本殿へ向かう参道には、現代芸術家・鴻池朋子さんが大阪・関西万博のために制作した「狼ベンチ」も置かれた。実行委の中心的存在でもある矢野淳さん(30)は「飯舘村は元々、自然と人間の境界線にあるような地。原発事故により、エネルギーをコントロールできるという人間の傲慢(ごうまん)さのひずみが表れたところでもある。鴻池さんも同じ思いです」と話す。
 矢野さんの父親は震災後、飯舘村への移住者第1号だという。父を追って矢野さんも5年前に東京から移住し、村内でイベントなどを通じて地域興しを手がける会社を経営する。「飢饉(ききん)の時は新潟や富山などから、終戦後は満州からの引き揚げ者など、飯舘は移民を受け入れ、地域を築いてきた」と矢野さん。「昔を大事にしながら新しい取り組みも必要。新旧入り乱れて作る例大祭が、今後もにぎわいを続けられるのか楽しみ」と話す。
 明治大、早稲田大、東大などの大学生たちも、屋台を出したり、テント設営をしたりして運営に関わる。全村避難中の13年に拝殿が火災で全焼し、2年後に再建された際にオオカミの天井絵を復元した東京芸大からも大学生が手伝いに来る。久米さんは「地元の活性化、活気につながれば」と期待する。(荒川公治)